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LINEの成功理由・商品をヒットさせるために大事なことは?

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2011年6月にリリースされたコミュニケーションアプリ「LINE」は、WhatsAppやSkypeといった競合サービスが存在する中で、主に日本市場で急速な成長を遂げた。2025年3月時点で月間利用者数9,800万人を誇り、国内人口の約70%をカバーするプラットフォームに発展した。本記事では、LINEが競合を凌駕した要因を客観的に分析する。

第一章 フューチャーフォン対応による市場参入の加速

LINEのリリース当時、日本ではスマートフォンの普及率が低く、フィーチャーフォン(ガラケー=ガラパゴスケータイの略)が主流だった。LINEは2011年からフィーチャーフォン向けにアプリ(ブラウザベース)を提供し、Androidベースのフィーチャーフォン(ガラホと呼ばれていた)でもアプリを提供した。これにより、スマートフォンを持たないユーザー層にも早期にリーチできた。たとえば、NTTドコモの「AQUOSケータイ」(SH-06G)は、LINEのプリインストールを目玉にしていた。しかし、ブラウザ版はプッシュ通知がなく使い勝手が限定的で、2018年3月にフィーチャーフォン版のサービスが終了。さらに、2020年3月には一部ガラホでプッシュ通知が停止された。この対応は、スマートフォンへの移行を促す戦略の一環だったが、リリース初期のフィーチャーフォン対応は、ユーザー基盤拡大に大きく貢献した。

ここでのポイント

第二章 スタンプ機能による独自性の確立

LINEの独自機能である「スタンプ」は、テキストでは表現しにくい感情をビジュアルで伝える手段として、日本のユーザーに広く受け入れられた。WhatsAppがテキスト中心、Skypeが通話やビデオ会議に特化していたのに対し、LINEはスタンプを通じて気軽で親しみやすいコミュニケーションを実現。無料スタンプの提供は利用頻度を高め、ユーザー間のネットワーク効果を促進した。この文化的適合性が、競合に対する明確な差別化要因となった。

図表:リリース当時の主要メッセージングアプリ比較

アプリ名 リリース年 主な機能 無料通話 独自の特徴 フィーチャーフォン対応 日本での普及度(2013年時点)
LINE 2011 テキスト、無料通話、スタンプ あり スタンプ、リッチなUI あり(ブラウザ版、ガラホ) 高い(5,000万人以上)
WhatsApp 2009 テキスト、無料通話 あり シンプルなテキスト通信 限定(一部機種) 低い
Skype 2003 無料通話、ビデオ通話 あり PC向けの通話特化 なし 中程度

出典:公開情報および市場調査データ(2013年時点推定)

ここでのポイント

第三章 震災後の市場ニーズへの迅速な対応

LINEの開発は、東日本大震災(2011年3月)を契機に始まった。電話やメール(当時はキャリアメールが中心)が繋がりにくい状況下で、インターネットを介した無料通信手段への需要が高まった。LINEは震災からわずか3か月後の6月にリリースされ、無料通話とメッセージング機能を提供。競合のWhatsAppは日本での認知度が低く、Skypeはモバイル最適化が不十分だったため、LINEは緊急時の連絡手段として急速に普及した。この迅速な市場参入は、競合に対する優位性を確立した。

ここでのポイント

第四章 戦略的パートナーシップの構築

LINEの日本市場での浸透は、主要通信キャリアとの戦略的パートナーシップなしには実現しなかった。NHN Japan(韓国系NHNの日本法人・現LINEヤフー)は、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった大手キャリアと協業し、LINEアプリのフィーチャーフォンやガラホ(Androidベースのフィーチャーフォン)へのプリインストールを実現した。たとえば、NTTドコモの「AQUOSケータイ」(SH-06G)にはLINEが標準搭載され、フィーチャーフォンユーザーにもアクセスを提供した。これにより、スマートフォン普及前の市場で早期のユーザー基盤を構築できた。また、キャリアとの共同キャンペーンも効果的だった。2012年には、KDDIがLINEの無料通話機能を活用したプロモーションを展開し、新規ユーザー獲得を加速させた。これらの取り組みは、競合のWhatsAppやSkypeが日本でのキャリア連携をほとんど行わなかった点と対照的である。

ここでのポイント

第五章 ローカライズされたマーケティング

NHN Japanは、日本市場向けに特化したマーケティング戦略を展開した。LINEは、テレビCMや街頭広告を通じて、スタンプキャラクター(例:ブラウンやコニー)を積極的に露出させ、ブランドの親しみやすさを訴求した。これらのキャラクターは、日本のポップカルチャーや「ゆるキャラ」ブームと親和性が高く、ユーザーの感情的な結びつきを強化した。さらに、企業や地方自治体とのコラボレーションスタンプを展開し、地域密着型のプロモーションを推進。たとえば、2013年にリリースされた地域限定スタンプは、ユーザーの地元愛を刺激し、アプリの利用頻度を高めた。こうしたローカライズ戦略は、グローバルなアプローチを優先した競合サービスが日本市場で苦戦した要因とは対照的である。

アプリ名 地域特化戦略 キャリア連携 ローカライズ施策 日本での普及度(2013年時点)
LINE 高い(デコメ文化継承、スタンプ) あり(NTTドコモ、KDDI等) 地域限定スタンプ、キャラクター活用 高い(5,000万人以上)
WhatsApp 低い(グローバル統一仕様) なし ほぼなし 低い
Skype 低い(PC中心の設計) なし ほぼなし 中程度

出典:公開情報および市場調査データ(2013年時点推定)

ここでのポイント

第六章 事件事故とその影響

LINEの成長過程では、事件事故も発生した。

2013年から2014年にかけて、第三者が不正に他人のアカウントにログインし、そのアカウントの友人になりすまして「コンビニでプリペイドカードを買って、番号の写真を送ってほしい」などと金銭を要求するアカウント乗っ取り詐欺が多発し、ユーザーからの信頼が揺らいだ。LINEはパスワード強化や二段階認証の導入で対応した。

同時期、ID検索機能などを通じて見知らぬ者同士が容易につながれる仕組みが、青少年の性犯罪被害の温床となった。また「既読スルー」や特定のユーザーをグループから外す「グループ外し」といった、LINEの機能を悪用したいじめも問題視されるようになった。LINEは、18歳未満のユーザーのID検索機能を原則として利用不可にし、携帯電話事業者と連携した年齢確認を導入した。

2021年3月、中国における個人情報アクセス問題が発生、LINEのシステム開発・運用を委託していた中国の関連会社の従業員が、日本国内のサーバーに保管されているユーザーの氏名、電話番号、メールアドレス、LINE ID、さらには一部のメッセージ内容などにアクセスできる状態にあったことが発覚した。この問題は、経済安全保障の観点からも大きな注目を集め、政府の個人情報保護委員会や総務省がLINE社に行政指導を行った。LINE社は、中国からのアクセスを完全に遮断し、トーク内の画像や動画などを保管していた韓国のデータセンターを日本国内へ段階的に移転する方針を発表した。

2021年9月、QRコードログインにおける2要素認証の脆弱性、PC版やiPad版LINEにQRコードを使ってログインする際、PINコードによる2要素認証を回避して不正にログインできる脆弱性が存在したことが発覚。脆弱性を修正したバージョンをリリースし、被害を受けた可能性のあるユーザーに個別に案内したとされている。

2023年11月、大規模情報漏洩事件、韓国NAVER Cloud社の委託先従業員のPCがマルウェアに感染したことを起点に、LINEヤフーのサーバーがサイバー攻撃を受けた。これにより、当初約44万件、その後の調査で合計約52万件にのぼるユーザー情報、取引先情報、従業員情報が漏洩とされている。総務省は、安全管理措置や委託先管理が不十分であったとして、電気通信事業法に基づき2度にわたる行政指導を実施。特に、NAVER社に強く依存したネットワークや認証基盤を分離し、資本関係の見直しも含めた抜本的な対策を求めた。(2021年3月の発表の日本移転方針が未達成かの疑惑)

2024年11月、「LINEアルバム」機能で他人の写真が誤表示される不具合が発生し、13万5,000人に影響。総務省から行政指導を受け、2日後に修正が完了した。これらの問題はそれぞれ短期的な影響を与えた。

ここでのポイント

第七章 エコシステムの構築とネットワーク効果

LINEは、ゲーム(LINE GAME)、音楽配信(LINE MUSIC)、決済(LINE Pay)など、アプリ内外のエコシステムを早期に構築。これにより、ユーザーのアプリ内滞在時間が増加し、競合の単一機能アプリに対する優位性を確立した。友だちや家族がLINEを利用することで新規ユーザーの参加意欲が高まるネットワーク効果も、成長を加速させた。フィーチャーフォン対応の縮小後も、スマートフォン中心の戦略でユーザー基盤を維持した。

ここでのポイント

第八章 グローバル競合との差別化

WhatsAppやSkypeは、グローバル市場を意識した汎用的な設計を採用していた。WhatsAppはシンプルなテキスト通信に特化し、日本特有のビジュアル文化への適応が不十分だった。SkypeはPCやビジネス用途に最適化されており、モバイルファーストの日本市場では使い勝手が劣った。一方、LINEは日本ユーザーの嗜好を反映した機能開発とキャリア連携により、競合が追随できない独自の地位を築いた。この地域特化型のアプローチは、LINEがグローバル展開(例:タイや台湾)でも成功したモデルとなり、他市場でもローカライズ戦略を展開する基盤となった。

ここでのポイント

おわりに:日本市場への深い理解と戦略的連携

LINEの日本市場での成功は、フィーチャーフォン対応による初期の市場参入、デコメ文化を継承したスタンプ機能、震災後のニーズへの迅速な対応、NTTドコモやKDDIとのキャリア連携、ローカライズされたマーケティング(地域特化)戦略の融合によるものである。事件事故は信頼性に一時的な影響を与えたが、影響を最小限に抑えた。競合のグローバルなアプローチに対し、LINEの地域特化戦略は、日本ユーザーのニーズを的確に捉え、圧倒的な市場浸透を実現した。このモデルは、デジタルプラットフォームの地域適応の重要性を示す事例として、今後も参照されるだろう。

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